SNSで『卒業』や『契約解除』がよくトレンド入りしているけれど、結局何が違うの?
VTuber界隈では、『卒業』や『契約解除』というワードがしばしば話題に上がります。
どちらも一見似ているように感じるかもしれません。しかし、実際には大きく意味が異なります。
そこでこの記事では、意外と誤解されがちなVTuberの卒業と契約解除の違いをわかりやすく解説します。
Contents
VTuberの卒業と契約解除とは
企業に所属するVTuberが引退して活動を終了するときは、一般的に『卒業』と『契約解除』という2つの異なるワードが使われます。
これらは似ているようでいて、その意味と背景には大きな違いがあります。
ここでは、卒業と契約解除の意味と、違いや類似点について見ていきましょう。
卒業とは
VTuberの『卒業』とは、企業所属のVTuberが自分の意志で引退することを意味します。
卒業する理由は、VTuberによっても違います。
どちらかと言えば、魂(中の人)が新たな道に進むための一歩であることが多いです。
一方で、事務所との方針の違いや体調面で長期的な活動が難しくなったケースもたくさんあります。
卒業の発表は、通常は所属する事務所やVTuber本人から行われます。
そして、卒業前にはライブや長時間の配信など、何らかのイベントを伴うことが多いです。
つまり、卒業はVTuberとリスナーの間で築かれた関係を総括するまとめのようなもの。
1つのコンテンツを締めくくる大きな節目なのです。
卒業後も、交流があるVTuberからは話題にされることもあります。
また、YouTubeアカウント・X(旧Twitter)アカウントは残され、事務所の公式サイトにも「卒業生」として名前が残ります。
こうした点も、契約解除とは扱いが異なります。
本人の意向にもよりますが、YouTubeやX(旧Twitter)のアーカイブは残らない場合もあります。ただ、大抵はアーカイブ保存のための猶予期間が設けられます。
契約解除とは
VTuberの『契約解除』とは、VTuberと所属事務所の間で交わされた契約が何らかの理由で終了することを意味します。
その背景や理由は、契約違反やスキャンダルなどさまざまなものがあります。
企業勢のVTuberは、VTuberと事務所の間でとてもたくさんの契約を交わした上で成り立つコンテンツです。
では、契約解除に関わってくる契約とは、具体的にどのようなものでしょうか。
以下は、企業所属のVTuberの契約形態について伊藤海法律事務所様の記事から引用します。
雇用契約 1つ目の契約形態は、雇用契約です。雇用契約とは、労働者が雇用主の労働に従事し、雇用主がその対価として労働者に賃金を支払うことを約束する契約を指します。
雇用契約の場合、企業が自由に解雇することができないことや最低賃金の規定など労働基準法が適用されるほか、原則として社会保険料などの負担も必要です。そのため、VTuberの契約形態が雇用であることは、さほど多くありません。
また、雇用契約とする場合であっても期限を定めない無期の契約であることは稀であり、3年や5年の有期契約とされることが一般的です。
準委任契約 2つ目の契約形態は、準委任契約です。当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託して、相手方がこれを承諾することによって効力を生じる契約を委任契約といい、事実行為を相手方に委託する場合は、準委任契約といいます。VTuberが事務所と締結する契約では法律行為を目的とするものではないことから、「準委任契約」に該当することとなります。
準委任契約は報酬の支払いは要件とされていないものの、VTuberが事務所と取り交わす契約は有償契約とされることが通常です。
なお、準委任と似たものに「請負契約」があります。請負契約とは当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって効力を生じる契約です。こちらは、仕事の完成を目的としている点で委任契約と異なります。
いわゆる「タレント専属契約」 3つ目は、いわゆる「タレント専属契約」です。
タレント専属契約は民法に記載のある典型契約ではなく、準委任契約と請負契約、業務委託契約、業務提携契約などさまざまな内容が混合された契約形態です。タレント専属契約は民法に根拠がないため、契約書の作り込みや個々の契約条項の内容などがより重要となります。
これらの契約は、VTuberが事務所と共に定めた『活動ルール』の遵守も要求されます。
引用:VTuberの契約形態は?企業との契約時の注意点を弁護士がわかりやすく解説 - 伊藤海法律事務所
著作権関連、クリエイターへの依頼、案件関係など、契約解除の事例の多くは、これらの活動ルールに対する違反が原因であることが示されています。
企業勢のVTuberは、私たちが考えている以上にたくさんの法律でがんじがらめにされているのですね。
契約解除の発表は、通常は事務所側から行われます。
VTuber本人の意思表明や発言が行われることは、基本的にこれ以降ありません。
近年は契約解除に至る経過が公にされることは増えてきたものの、やはりファンからは突然の発表と受け取られることもあります。
契約解除後は当然ながらタブー扱いとされるため、同じ事務所のVTuberから話題に出されることはありません。
また、YouTubeアカウント・X(旧Twitter)アカウントからはアーカイブ削除、事務所の公式サイトからも名前が消されるなど、扱い方は卒業とはっきり違います。
契約解除は本当に突然なので、別れの機会はほぼありません。もっと言えば、アーカイブも残りません。
両者の違いと共通点
卒業と契約解除の主な違いは、その背景にあります。
卒業はVTuber本人の自発的な決断であり、新たなスタートを切るためのポジティブな一歩と見なされます。
VTuberの卒業とは
- 企業所属のVTuberが自分の意志で引退すること
- 卒業する理由はVTuberによって異なる
- どちらかと言えば前向きな理由であることが多い
- 卒業の発表は事務所やVTuber本人が行う
- 卒業前にはライブや配信などのイベントが行われることが多い
- YouTubeアカウント・X(旧Twitter)アカウントは残る(※本人の意向でアーカイブは残らない場合や非公開になる場合も)
- 卒業後も話題に出してよい
一方で、契約解除は所属事務所との契約関係が終了することを意味します。
ルール違反やスキャンダルなど、多くの場合はネガティブな理由に基づきます。
そして、VTuber本人の意向よりも、事務所側の決定や外部からの圧力によって動かされるケースが一般的です。
VTuberの契約解除とは
- 企業所属のVTuberと所属事務所の間で交わされた契約が終了すること
- 契約解除に至る背景や理由はさまざま
- 契約違反やスキャンダルなどネガティブな理由がほとんど
- 発表は事務所側が行う
- 卒業配信や本人のあいさつなど別れの機会はない
- YouTube・X(旧Twitter)からアーカイブはすべて削除される(※猶予期間が設けられることもある)
- 卒業後は話題に出すことがタブー扱いとなる
しかし、両者にはたった1つだけ共通点もあります。
それは、どちらのケースもVTuberが引退するということ。
リスナーにとっては、好きなVTuberが姿を消すというにおいて大きなショックを与えることは間違いありません。
卒業したVTuberとその理由
ここでは、VTuberが卒業する主な理由と具体例について解説します。
VTuberが卒業する主な理由
VTuberが卒業する主な理由は、以下の3つです。
VTuberが卒業する主な理由
- キャリアチェンジ
- 個人的な理由
- 活動方針の違い
1つ目の理由が、キャリアチェンジです。
VTuberから異なるキャリアに進みたいと考えた場合、活動拠点を変えるために卒業を選択することがあります。
これには、VTuberとしてのイメージを脱した活動転向や、まったく異なる職業への就職などが含まれます。
2つ目の理由が、個人的な理由です。
健康上の問題、家族との時間を優先したい、精神的な負担を減らしたい。
このような個人的な事情によってVTuber活動を続けることが難しくなり、卒業を選択するVTuberもいます。
3つ目の理由が、事務所との活動方針の違いです。
所属事務所との方向性の違いや、自身の活動方針との齟齬が生じる場合も少なからず出てくるようです。
こうした溝が埋まらないようであれば、VTuberは卒業を決意することがあります。
卒業したVTuber
次に、卒業理由が明らかになっているVTuberの一例を簡単に紹介します。
- 出雲霞(にじさんじ):2020年10月31日卒業。物語を終わらせるため。
- 黛灰(にじさんじ):2022年7月28日卒業。事務所との方向性の違い。
- 相羽ういは(にじさんじ):2023年12月31日卒業。アイドルという使命に向き合うため。
- 狐坂ニナ(にじさんじEN):2023年7月8日卒業。自分のパフォーマンスに納得がいかなかった。技術や才能を磨き、成長したいから。
- 九十九佐命(ホロライブEN):2021年7月1日卒業。健康的な理由で長期的な活動が難しくなったため。
契約解除されたVTuber
ここでは、VTuberが契約解除された主な理由と具体例について解説します。
VTuberが契約解除される主な理由
VTuberが契約解除される主な理由は、ルール違反です。
所属事務所が設定した活動ルールやガイドラインに違反した場合、契約解除の対象となることがありす。
これには、不適切な発言や行動、著作権の侵害、機密情報の漏洩などが含まれます。
とはいえ、VTuberは事務所にとって大切な財産。よほどのことがない限り契約は解除されません。
ルール違反したVTuber自身に反省の意思や改善の余地が見られる場合は、謹慎処分などのペナルティで済むことがほとんどです。
しかし、契約解除されるということは言い換えれば改善の余地がないこと。
つまり、事務所でもかばいきれないよほどのことをやらかしてしまったということなのです。
契約解除されたVTuber
次に、契約解除された理由が明らかになっているVTuberの一例を簡単に紹介します。
- 真堂雷斗(にじさんじ):2019年3月12日契約解除。多数のスキャンダル判明による契約解除。活動期間はわずか4日。
- 芦澤サキ(RIOT MUSIC):2022年11月17日契約解除。別名義で音源を無断使用するなど、契約違反行為が複数発覚したため。
- ランザー・罪恩(にじさんじEN):2023年3月10日契約解除。機密情報漏洩など複数の重大な違反行為が原因。
- いなうるう(ななしいんく):2023年12月20日契約解除発表。休止期間中の問題行動が複数確認されたため。
- 夜空メル(ホロライブ):2024年1月16日契約解除。機密情報漏洩など活動ルール違反が複数確認されたため。
夜空メルさんの場合は事務所を通じてではあるものの、契約解除後に本人名義の謝罪の手紙が公表されています。この点は、従来の契約解除の例から見るとかなり異例ですね。
VTuberの卒業と契約解除の違いを理解しよう
今回は、VTuberの卒業と契約解除の違いを解説しました。
誤解されやすいのですが、『卒業』と『契約解除』は似ているように見えてもその背景や意味は大きく異なります。
この記事のまとめ
- 卒業はVTuberの自発的な引退であり、ほとんどが前向きな理由
- 契約解除は所属事務所との契約終了のこと。多くはルール違反などネガティブな理由
- どちらもVTuberの引退を意味する点だけは共通している
- 引退後は関係者からの扱いも違う
卒業や契約解除に至る背景には、表に出ないだけで多くの理由があります。
だからと言って、両者を一緒にして批判をしたり憶測で意見したりすることは、不必要な誤解や混乱を引き起こし兼ねません。
気持ちの整理をつけるのは難しいことです。しかし、できるだけ感情に流されずに事実とVTuberの選択を尊重することがファンとして大切なことではないでしょうか。
そして、これまでの活動の努力を消さないためにも、企業勢のみなさんはどうかルールを守って最後まで活動してほしいと切に願うばかりです。